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小説が好きだ!

①から随分間が空いてしまいました。
そして現在はコロナ禍真っ最中。

必要最低限な事で命を繋がねば、と必死におこもり生活をしています。
そして実感します。
心を潤すことも、必要なんだなぁ、と。
幸い現代にはエンタテイメントが溢れています。

スマホやタブレットに本も、音楽も、映像も、ゲームも、入っています。
そんな中で、絶版の、電子書籍にもなっていない作品のご紹介。その2です。
状況が好転して、図書館が開いたら、手にとってください。



さあ、マイクレズニックの連作短篇集「キリンヤガ」
その中の「空にふれた少女」について、語ります。
ラストシーンまでネタバレしてます。ご注意ください。

キリンヤガのざっくりしたあらすじは①を読んでね!
①はこちら



愛しづらい「キリンヤガ」の祈祷師、コリバカマリという少女に出会います。
カマリは聡明で、コリバが子どもたちへに説話をすると
「それは物語ね。嘘だわ。」と見抜きます。
「でも、もっと知りたい……」
カマリは、コリバの住居の中で、本とコンピュータに出会い、
文字を書くこと、読むことを強烈に欲します。
しかし、キリンヤガはトラディショナル・ケニアン・ライフの厳格なルールがあります。

女は文字を学んではいけない──。

なんでだよ!と、今の感覚で生きているわたしは思います。
そして思い出すのです。
学ぶことを、読むことを、書くことを、その他多くのことを女だからって禁じられていた世界が、
つい最近まであったことを。

カマリは諦めません。
頭の固いコリバに言っても仕方ない。
コンピュータのAIと会話し、そこから文字を学ぼうとします。
しかしそれもすぐコリバに見つかります。
コリバはAIに命じます「カマリに対して、世界中の全ての言語を用いてはならない」

これで諦めるだろう。コリバは胸をなで下ろします。
しかし数日すると、コンピュータが起動しています。
そこには、見たこともない文字列が並んでいます。
コリバはAIを問いただします「カマリと言語を用いることを禁じたはずだ」

AIは答えます。
「この文字列は、カマリが作り出した言葉です。
 世界中のどこにもない言葉です。
 あなたは、それを禁じていません」

コリバは驚き(この驚きに少しの喜びが含まれていることがまたむかつきます)
AIに命じます。
「今後、カマリと一切の接触を禁じる。カマリが起動しても即シャットダウンすること」

はい、クソ〜!!!!!!

って思いました正直。
その後、カマリはAIとの接触を試みますが、AIは命令通り即シャットダウンします。

そして──カマリは塞ぎ込み、
ある日、自死します。

カマリが自死に使った布に、不思議な文字列が残されていました。
コリバはAIに解読を頼みます。
この文字列は、カマリが発明した言葉でした。
そして、書かれていた言葉は、二行連句。

籠の鳥が死ぬわけを知っています
鳥たちと同じように、あたしも空にふれたから──

一度、飛ぶことを覚えた鳥は、もう籠の中では生きていけません。
学ぶことの、読むことの喜びを知ってしまうと、もう知らない頃には戻れないように。


このカマリの死はやるせなく、胸に残ります。
この老人は、少女から何を奪い、そして何を守ったのか。

この他の短編でも、コリバは頑なにキリンヤガを守ろうとし、苦闘します。
それらは全て、コリバの目線で描かれます。

この感情移入しにくい主人公と共に、心を揺らし続ける短篇集「キリンヤガ」
復刊してくれ!!!!!!!