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『ユリイカ2019年11月臨時増刊号 総特集=日本のアイドル』
が素晴らしかった、という話です。



寄稿も対談もバラエティに富んでいて、じっくり読むのに時間がかかってしまいました。それくらい示唆の深い記事が多く、勉強になりました。いくつかの論において「少年」としてのジャニーズを切り取って議論していましたが、自分にとって熱い議題でもありました。

並べるのは恐縮ではありますが、私は海外大学院で「アニメの中の少女」をテーマに修士論文を書いてきました(参考文献に使ったリソースが、今号の引用でも多く見られました)。20代で海外にはじめて在住し感じたのは、日本のメディア表象において「少年」「少女」はひときわ特別な存在であるということです。もちろん、エンタメだけでなく社会に影響を及ぼしたその功罪については議論されるべきだと思います。


話題が飛ぶように思われますが、一方で、ビートルズを自由研究している者として面白いのは、「少年・少女」の権化である「アイドル」が、初期ビートルズと大きく被る部分があるということ。
私個人としては、ジャニーズもビートルズの「アイドル」としての側面は好きで、どちらにもお金を払ってそのエンターテイメントを享受してきました。どちらも、音楽家(アーティスト)としての表現も同じくらいに好きです。ただ、アイドル性というのも欠かせない部分だと思っています。今回はユリイカ増刊号を読んで、ビートルズとジャニーズというふたつの存在について「アイドル」という視点から書ければと思っています。

(※ 筆が止まらず長くなりすぎたので、2回に分けました。)


ビートルズのアイドル売りについて

この文章において、「ビートルズのアイドル売り」とは主にデビュー(1962年)からライブツアーを行なっていた時期(1966年まで)と捉えることとします。この頃のビートルズの活動を知るには、映画『Eight Days A Week -The Touring Years』がとても簡潔で分かりやすいです。(2019年秋現在、Netflixで観られます。)

私は、アイドル売りしていた頃のビートルズを知ってすぐに、これがジャニーズ事務所アイドルの原型だろうと考えました。事実かどうかはひとまず置いておき、検証もせずにどうしてそう思ったのかというと、ビートルズのアイドル売りが、様々なアイドルを幼少期から見てきた自分にとって、あまりに自然だったからです。

ということで、以下、アイドル・ビートルズがやってきたことを箇条書きします。


歌:初期の歌は「君だけが好きだよ、一番だよ」というシンデレラガール系が中心。初期の代表曲は「She Loves You」「I Want To Hold Your Hand」「Can’t Buy Me Love」など。タイトルだけ見ても雰囲気が分かります。

円盤:ジャケット写真はとにかくお顔が良いのをチョイスし、大きめに配置。

BEATLES FOR SALE
BEATLES
EMI UK
2009-09-09



MV:そもそもMV(PV)というプロモーション方法を開発したのがビートルズです。それだけ彼らは音楽そのものと彼らのビジュアルが活動において切っても切り離せないものだったことが分かります。

演奏シーン中心のものもありますが、4人で縦に並んで1人がオチ担当に使われているというPVや、


演奏というよりいかに綺麗な庭で綺麗な顔を映すかにこだわったPVなど。



ビートルズ公式にはアップロードされていませんが、個人的には映画『Help!』内のアルプス雪山での「Ticket To Ride」がアイドルわちゃわちゃPVの元祖ではと思っています。雪山に突然ピアノが設置されてあったり、いわゆる「トンチキ」系でもあります。


ライブ:スタジアムなどとにかく大きな箱で行い、客動員数を稼ぐ。ファンの女の子たちは演奏よりもビートルズ本人に悲鳴に近い歓声をあげています。様々なアイドル現場を見てきた私でも、ファンの熱量にはたまげました。DVDや動画サイトが普及している時代に生きる私は、ライブ中に気絶したら推しが見えなくなるだろ!なんて思いますが、当時のファンにとっては一生に一度かという、好きな人と会える機会だったのだと思います。


上の映像でもファンの熱狂は少しだけ感じとられるでしょうか。上で挙げたEight Days A Weekを観ていただくのが一番伝わるかと思います。

映画:4人の主演映画(『A Hard Day’s Night』『Help!』)では、歌と同じくらいメンバーのわちゃわちゃを重視。自転車を漕いだり、スキーをしたりするメンバーの戯れが大画面で堪能できます。(なお、メンバーに1人演技派がいる)

雑誌:猫耳などをつけて「カワイイ」を全面に。また、2人ずつのコンビショットも多数。

テレビ:歌番組には積極的に出演。バラエティでは、名物司会者にポンコツっぷりにツッコミを入れてもらっています(結果おいしい)。

舞台:単独コンでフライングを伴う劇をやったこともあります。テレビ特番でシェイクスピア劇をやったことがあるが、パロディ多めでどちらかというとコント。

ファンクラブ:ファンクラブ特典として、クリスマスに4人からのメッセージ音源が届く。


いかがでしょう。現代の日本のアイドルとほとんど同じではないでしょうか。1960年代でこのシステムを作り上げたビートルズ陣営、メディアの扱いに長けていて驚きますが、それほど当時イギリス精鋭のスタッフが揃っていたと思われます。なお、西洋諸国には日本のような「アイドル」という職業は存在しておりません。でも、上記のような活動を「アイドル」と定義し、芸能界に活かしてきたのが日本なのではないかと推察しています。

(朝日新聞Web・論座より)


上記記事には、ビートルズ4人の主演映画『Help!』(1965年)は、日本公開時にタイトルが『Help!  4人はアイドル』に変更になったと書かれています。ジャニー喜多川氏による初代ジャニーズは、前年の1964年にデビューしました。「アイドル」という言葉が日本芸能界で頻繁に用いられるようになったのは1970年代だと言われていますが、1965年という、日本型アイドルの創成期に、すでに「4人はアイドル」という言葉がビートルズに当てはめられていたという事実は、アイドル界において考察すべき事項なのではないでしょうか。


ジャニーズはジャニー喜多川氏のルーツからも、西海岸のミュージカル文化が根底にあると言われており、今回も複数の記事で言及がされていました。太田省一氏は、初代ジャニーズが結成された1960年代前半には歌って踊る男性歌手は存在していなかったこと、フォーリーブスなど続くアイドルを売るにあたり、グループ・サウンズと徹底的に差別化を図った戦略を取ったことを指摘しており(kindle版位置No.844,875)、ビートルズとグループ・サウンズを一括りに、ジャニーズはそれとは異なるものとして成長したと論を展開しています。確かに、後継グループたちが楽器を持たなかった(今ではバンド活動を行うジャニーズアイドルもいるが)という点では、グループ・サウンズとは差別化されていたと思います。また、ショービジネスが根底にある点では、ジャニーズはイギリスのバンドには近くなく、アメリカ寄りでしょう。
しかし、私はビートルズとジャニーズは、メディア展開においては並列して語られて良いと思っています。理由は上記で挙げたように、こんにちの多くのアイドルが目指す、「歌やMC・バラエティもこなしつつ、メンバー間の仲良いやり取りを見せていく」メディア戦略が1960年代のビートルズでほぼ完成されたと考えられるからです。 

なんやかんやでアイドルについて語っていたら、ビートルズの少年性に言及するに至らなかったので、後編では少年アイドルとしてのビートルズとジャニーズについて書けたらと思います。



☆今日のフレーズ

Can't buy me love
Everybody tells me so
Can't buy me love
No, no, no, no

(Can't Buy Me Love / The Beatles) 

【お金で愛は買えない みんなそう言ってるけど
お金で愛は買えないんだ 絶対に (×4) 】

後の歌詞を見れば「Money can't buy me love」とちゃんと全部文章が載っているのですが、タイトルとサビでは主語が省略されて「Can't Buy Me Love」と表記されています。

そもそも英文として日本語では見慣れない形を取っていて、

Money (S) can't buy (V) me (O) love (O)

の第4文型SVOOの、主語が非生物という文章です。
直訳すると「お金は私に愛を買うことが出来ない」。
人間である私に則して解釈すると、「愛はお金じゃ買えないよ」ということでしょうか。
ファーストアルバムに入っている「Money」という歌のアンサーソングとも言われていますが、当時大金を稼いでたであろうアイドル・ビートルズが普通の男の子として「愛は金じゃない」と歌うのって、アイドルとして模範回答すぎませんか?