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日本で公開されましたね、映画『Yesterday』!!!
なかなか多くの映画館で公開されていて、ビートルズファンとしても嬉しい限りです。
これをきっかけに、ポールマッカートニーさんってもしかして…素敵やん?と気づく若者が増えることを願っている、ポール神推し20代女です。

今回のテーマは、ビートルズオタクから見た映画『Yesterday』の感想です。
誠に恐縮ながら、リチャード・カーティス脚本の視点からも観察できれば…と思っています。

なお、思いっきりネタバレとなるのでご注意ください。



映画『Yesterday』のイギリス封切り時、私はちょうど留学中だったので、6月の全英公開日に意気揚々と一人で観に行きました。

結論から言うと、素晴らしい映画で、同時にビートルズオタクとしては200箇所くらいツッコミを入れながら見るのでめっちゃ疲れる映画でした。ここで言うツッコミは、脚本が巧みだから出るものだと思っています(後述)。

あらゆるジャンルのオタクと同じく、ビートルズオタクはビートルズが好きすぎて、フォルクスワーゲン・ビートルの生産終了のニュースにすら反応してしまう面倒な思考回路のため、そもそもビートルズの曲が新録ライブ音源でかかる時点でリアクション全開で見ることになるのは間違いありません。なので、ビートルズ好きであれば、そもそも映画というよりアトラクションとして、スペースマウンテンくらい楽しめるでしょう

私は、周りにあまりにビートルズを語れる友人もいなかったので、ハリウッド在住・ジョンレノンオタクのアメリカ人知人(世界の某D社勤務)と、1時間くらいテレビ電話でどこが良かった、あそこはどうすべきだったんじゃ……そもそも監督は……脚本は……うんうん、つまりはジョンレ最高!!!!!
と、ぶつけあいました。これ以上ないってほど、めちゃくちゃ映画楽しんどるやんけ。

そうして色々考えた結果、映画『Yesterday』は私の中で、



ビートルズのステマ映画と思いきや、ブライアン・エプスタインのすごさを証明する映画だった



という結論に落ち着きました。
(※ビートルズオタク個人の所感です)

監督のダニー・ボイルは『トレインスポッティング』や『スラムドッグ・ミリオネア』など数々の名作を撮っています。私はトレインスポッティングが好きすぎるせいで、スコットランドのイメージがガッタガタになりました。
(今年7月、ロケ地でトレインスポッティングごっこをして健全にはしゃぎました。エディンバラはとっても美しい街です)

脚本家はリチャード・カーティス。『ノッティング・ヒルの恋人』『ラブ・アクチュアリー』『ブリジット・ジョーンズ』などが代表作。私はこの3作ともめちゃくちゃ好きです。少女漫画みたいな価値観の胸キュンシーンを作るのがとても上手だと思います。ロマンチストさで言うと「花とゆめ」「りぼん」並みかそれ以上。

監督作でもある『ラブ・アクチュアリー』では、グランドホテル形式と呼ばれる群集の描き方をしています。邦画だと『エイプリルフールズ』や『THE 有頂天ホテル』、アニメだと『デュラララ!!』なども、一見関係ないような登場人物が、実は関係者同士でだんだん物語が進むにつれて繋がっていく流れを取っています。

映画『Yesterday』はしかし、グランドホテル形式ではなく、ヒューグラントとコリンファースの殴り合いシーン(100回は見た)があるわけではなく、

「異世界転生したら俺だけビートルズ知ってて雑魚ミュージシャンだけど天下取ったった」という映画。

物語は、主人公ジャックとエリーの恋と、ビートルズ伝道師としてのミュージシャンキャリアの2軸で進んでいきます。この軸の立て方は前に挙げた3作もしかり、カーティス流ラブコメの王道ではないでしょうか。
主人公のちょっとダメで恋愛には奥手だけど、決めるとこは決める!というところも、『ノッティング・ヒルの恋人』『ラブ・アクチュアリー』での男性像に重なりました。

しかし、ミュージシャン軸で物語の鍵となるのは、彼の腕前とか芸能界を生き抜く図々しさとかではありません。プロデュースです。エド・シーラン扮するエド・シーランが実力を認めたり、LAの音楽会社がああだこうだと売り出し方を指示したり、プロデューサーがここぞとばかりに嫌味に描かれていたり、主人公ジャックは音楽ビジネスに振り回されていきます。
レディ・ガガ版『スター誕生』でも、音楽業界のプロデュースの仕方が恋人の仲を引き裂いていましたが、ここでもやはり描かれるのは、「売れる」売り出し方。ゴテゴテで派手な西海岸のやり方への皮肉が明確に入っていました。

主人公だけはビートルズがどう売れたかを知っている世界ですから、「ホワイトアルバムは真っ白なジャケットで……」とか言えるわけです。でも、ゴテゴテ西海岸は「は? ビーチでパーティでHere Comes The Sunだろ常識的に考えて」と一蹴。観客のオタクからすると、


「Here Comes The Sunはなァ……ちげえんだよ……そんなギラギラの太陽の下で流す曲じゃねえんだ100回聴いてこい」


となるんですが、なるほど、曲の背景を知らないでLAで聴いたら、誰もがそう解釈するかもしれない。
いちいちそういう脚本・演出上の巧みな「曲の解釈すり替え」にビートルズファンは痒いところを突かれたような気持ちになるのです。

そして、一人でLAプロデュースのもと、ビートルズの曲を歌うジャックへの違和感を確実に覚えるでしょう。ムズムズする違和感を与えるのは、主演俳優としても(ヒメーシュ氏、めっちゃ歌うまいです)、脚本・演出としても、大勝利。だからこそ「ビートルズはすごい」というメッセージに帰結するのだと思います。

ここで何がすごいかというと、曲そのものは同じでも、プロデュースの違い・パフォーマンスの違いが浮き彫りになること。この映画では前提として、レノン・マッカートニーの曲は「異世界転生してもみんなが名曲と認める」状態で進みます。ここはオタク大満足。(ジョンレノンのシーンは触れないでおきます。ファンの中で解釈割れてそう)

言い換えると、ビートルズがあの4人のビートルズとして「売れた」という事実がすごいということ。1960年代に、あのマッシュルームカットの良い子バンドとして売り出して、当時もブイブイだったLAで天下を取ったということがいかにヤバイかが、映画という現実の写しを見せられることでじわじわと襲ってくるのです。



ビートルズをその形で売り出したのは、マネージャーであったブライアン・エプスタインです。


彼はリバプールのヤンキー革ジャンルックスだった若いビートルズメンバーたちを、「大衆に受け入れてもらえるように」というシンプルな理論でお揃いのスーツに着替えさせます。とってもシンプルなマーケティング理論。そしてビートルズは売れた。



彼らは音楽業界で何度常識とぶつかって、何度それを破って、イエスタデイという曲をこの映画のタイトルに使われるくらいまで大きくしたんだろうか。



映画『Yesterday』は現代の設定で1960年代とは環境も条件も違いますが、でも当時のイギリスにだってセオリーがあって、アメリカにもセオリーがあって、それは曲がいくら素晴らしかろうが、エンターテイメントではつきまとう。主人公ジャックだって、世界で一人イエスタデイを知っていながらも、よく分かんないビーチパーティでアルバム発表とかさせられちゃう。

でも、本物のビートルズはエルヴィスプレスリーの格好で売れたんじゃない。映画での音楽会社には「そんなの売れ線じゃない」と言われそうなスタイルで、しかも何作品も方向性を変えて、何度も突破したのです。

ブライアン・エプスタイン本人にも色々あったと言われていますが、事実として彼が自殺を遂げてから、ビートルズはバンドとしてのまとまりを急速に失い、解散へと加速していきます。

ビートルズ本人たちの物語が創作物語よりもドラマチック疑惑がありますが、映画『Yesterday』を見ると、いかにビートルズたちがマーケティング面で優れていたかが分かる気がしました。以上、ビートルズオタクによる個人的な感想でした。




なお、イギリスの劇場で満点大笑いが起きたのは、Oasisと検索して砂漠のオアシスしかヒットしないところ、ジェームズ・コーデンご出演パート、エドシーラン登場シーンでした。




☆今日のフレーズ

And now my life has changed in oh so many ways
My independence seems to vanish in the haze

(Help! / The Beatles)

【それで今や、僕の人生はそう、色んな意味で変わっちまった
自立心なんて霞の中に消えてったみたい】

has changed:現在完了、つまりmy lifeが in (oh) so many ways=色んな意味で変わった状態が完了して続いている。
My independence seems to:これは現在形、つまり今の自分が人生が変わって、independentだったはずの僕はどっかに行ってしまったと嘆いている。 

…ということで、結構な口語訳で書いてみました。

映画『Yesterday』と原曲が最も解釈の一致を起こす部分、それはこの「Help!」演奏場面ではないでしょうか。原曲の方は、ジョンが過密スケジュールに売れて変わってしまった環境…、自分の「助けて!!!」という気持ちを曲にしたものという話が有名です。一方の映画も、主人公が売れて自分を見失って「助けてくれ」というシーンで演奏されます。これがアイドル映画の主題歌になっていたという事実も噛み締めると味わいが深すぎる……。彼らは本当に、何度限界を超えて、世界へ売れたのだろう。