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☆ 祝『Abbey Road』 50年ぶりの全英アルバムチャート1位 ☆ 


世界一有名な横断歩道といえば、おそらくアビーロードと答える人が多いのではないでしょうか。タイムズスクエアやスクランブル交差点のような人と場所の結節点なら分かるけれども、世界中の人になんとなく知られている普通の横断歩道って存在が面白い。ビートルズを聴いたことがない人でもアビーロードの横断歩道の写真だけは何故か知っている、「横断歩道が一人歩きしている」状態。 






実際にロンドンの地下鉄St. John's Wood駅から徒歩5分、その横断歩道まで行ったことがありますが、完全に観光名所でした。実際は、交通量の多い、レコーディングスタジオ前のただの横断歩道です。しかし、朝早くから人で溢れかえってました。大抵のイギリスガイドブックにも「あの名ジャケットの撮影地に行こう!」なんて載っているので、もはやビートルズにそこまで興味がなくてもロンドン観光記念にという人も多いのではないでしょうか。渡った先にあるアビーロードスタジオにはお土産やさんもご丁寧に設けられているので、奴らの思う壺です。私も訪問時はテンション上がりすぎて財を散らかすこととなりました。 


ちなみに、なぜレコーディングスタジオの前かというと、当初エベレストまでジャケット撮影に行く?なんて盛り上がっていた話を「いやエベレストとか遠いし、そこで良くね?」とスタジオ前に変更したとか。めんどくさがリートルズ。



そんなアビーロードについて思うことを二点記すとすれば、一つは、冒頭にも書きましたが、ポップカルチャーのアイコン的デザインって面白いなということ。もう一つはアビーロードはビートルズの入り口でもあり、離脱ポイントでもあるだろうなということ。 



アビーロードは50年前の1969年にリリースされていますが、同じくらい有名なアンディウォーホルのバナナこと、『The Velvet Underground & Nico』は1967年。これも同じく音楽は知らなくても「あ~~バナナね、あのバナナ」となるジャケットだと思います。

The Velvet Underground & Nico [12 inch Analog]
Velvet Underground
Vinyl Lovers
2015-11-13


(※あのバナナ)

例えばローリングストーンズの舌、とか他にも色々挙げられますが、この60年代ポップアートの持つ雰囲気は、現代の日本まで色濃く引き継がれているのではと思います。アビーロードに関しては、それが「伝説となって解散したバンドの最後のスタジオアルバム」(アルバム『Let It Be』は、ここではビートルズ自身が意志をもって製作したスタジオアルバムからは省く)という要素も大きいのではないでしょうか。「ポップアイコン」には下記のような意味合いも大きいと言います。


サブカルチャーと融合したアートの世界にもポップ・アイコンは持ち込まれ、しばしば死のイメージが投入される。アンディ・ウォーホルの作品を例に挙げるまでもなく、そこにはマスメディアに埋没する自己の死へのナルシスティックな憧憬――英雄的な死によってマスメディアに注目されること――が含まれている。


(参照:artscape アートワードより「ポップアイコン」「ポップアート」) 

https://artscape.jp/artword/index.php/%e3%83%9d%e3%83%83%e3%83%97%e3%83%bb%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3




ここで書かれているように、謎にチェ・ゲバラTシャツが人気なのも、ニルヴァーナTシャツが着られているのも、アビーロードがそれ自身を超えて知られているのも、「もう既に世界が失った伝説だから」。人は取り戻せないものに憧れを抱き、想いを馳せます。物語でも、映画でも、実在の人物でも。スラムダンクが伝説の漫画と言われるのは、あの山王戦で終わったからというのも間違いなく要因のひとつだと思います。マスメディアや私たちは皆大衆文化の中で、今もそういったストーリーを再生産している。そこに乗っかるも歯向かうも、私たち次第です。ただ、その構造に自覚的でありたいなとは常に思っています。 


二点めは、全然テンションが変わりますが、 アビーロードって上記の通り有名すぎて、最初に聴き始められがちだけど、 




最初にアビーロード聴くのは絶対にやめとけ




という話。ビートルズ聴き始めるか~と思ったら、今だとSpotifyとかApple Musicとかですぐに聴けるじゃないですか。で、「あ~この横断歩道知ってる!有名なアルバムなんでしょ?じゃあこれ聴いとくか」って自然な流れでなると思うんです。 


でも、名アルバム『Abbey Road』にはあまりにも新規トラップが多すぎる。アビーロードの何がすごいって、レコードB面(CDだと9曲め以降)がメドレーになっていて、オペラのように曲終わりでブツ切りされずに繋がっているところだと言われています。が、そこに辿りつくまでに、初めて聴いた段階では「あ……あ……」ってカオナシみたいな声が出るポイントが満載の初見殺しアルバムです。 


具体的に見ていきましょう。 



1. Come Together(ジョン作) 

2. Something(ジョージ作) 


3. Maxwell’s Silver Hammer(ポール作) 


4. Oh! Darling(ポール作) 


5. Octopus’s Garden(リンゴ作) 



↑ここまでの前半は、メンバー4人それぞれ作曲した曲が入っていることからも、「どれがお好みかなウフフ」って感じでまだ大丈夫。でも、アビーロードを「まとまりがスゴイ!」アルバムだと思って聴いたとしたなら、「ハンマーでぶっころ~す(ニコニコサイコパス顔で)」(3曲め)「タコの庭に逃げてのんびり暮らしたさすぎ わろた」(5曲め)など、 




こいつら……めっちゃ病んでるじゃん……ええ??? 




とドン引きするので注意が必要です。ほんとに病んでたんやろな…。さらにとどめを刺すのが、 


6. I Want You (She’s So Heavy) 


重い女への重い愛を重いトーンで歌い上げたこの曲。7分47秒もあります。長さまで激重。繰り返されるねっとりしたフレーズ。興味本位で聴いてみた無邪気なリスナーを容赦なく困惑に突き落とす。正直に白状しますと私はここで最初脱落しました。すみませんでした。 


その後、有名曲「Here Comes The Sun」を挟んで、さあて、ようやくメドレーっぽい雰囲気か??と思ったところで、また不穏な空気の「Because」、そして主旋律となる「You Never Give Me Your Money」がはじまります。


しかし、メロディはポップでまあビートルズらしいのかな?と思っていると、聞こえてくるのは「You never give me your money. You only give me your funny paper……」




えっと、君らもしかして、金の話してる??? 伝説のアルバムで、契約の話してんの?? 




感動する「Golden Slumbers」「Carry That Weight」「The End」に辿り着くまでに、何回困惑すりゃええねん。初回で辿り着ける人は、もう十分ロックミュージックの素養がある人なのではないだろうか。 


しかし、アビーロードのB面メドレーは与えた影響がまた物凄く、だいたいのコンセプト系アルバムは、ビートルズの「サージェントペッパー」または「アビーロード」の影響下にあると言われています。が、これはまた後日。


とにかく私が言いたいことは、 



ビートルズを聴きはじめようと思う人には、悪いこと言わないからベストアルバム(赤盤・青盤と呼ばれているやつ)をすすめたい。その上で気になる曲を教えてくれたら、次にあなたに合いそうなオリジナルアルバムを喜んで無料診断するから!!! 間違ってもアビーロードから入らないで……アビーロードは、4人の歴史が分かった上で最後に聴いて……10セントあげるから…………。 


以上です。



蛇足ですが、私は数年前、映画『Help!』でリンゴスターが着ていた衣装(アルバム『Help!』のジャケット写真でも着用されています)のコスプレをしてあの横断歩道へ行きました。

ヘルプ!
ザ・ビートルズ
ユニバーサルミュージック
2013-11-06


完全に、気合いを入れすぎた観光客でした。原宿で買ってきたシルエットの近い古着のコートを、何日間かかけて自分でリメイクしたのですが、アビーロード半径10m以内でだけは「You’re awesome!」と褒めちぎられ、写真撮ってと頼まれたり、人気者になれました。蛇足でした。



☆今日のフレーズ

You never give me your money

You only give me your funny paper

(You Never Give Me Your Money / The Beatles)


【君は金を絶対くれない、くだらない紙切れを渡してくるだけ】


never 「絶対に~ない」と only 「~だけ」が対になっている文章なので、こんな感じでひと息で訳してみてもいいのかなと思っています。funnyはここでは「面白い」というプラスの意味では絶対になく、「くだらねえ書類ばっか渡してきやがって。金の亡者め」みたいなニュアンスだと思われます。paperはdocumentみたいな意味にも捉えることができて、卒業論文のことですら、向こうではpaperのひとことで言ってきます。それにしてもイギリスっぽい皮肉だな…と思うので、paperは日本語だと「紙切れ」って感じ。イギリスの皆さんはこういう皮肉が大好物です。