【米内山陽子】小説のパンチライン「キリンヤガ」①
小説が好きだ。
文字の羅列だけで遠くへ連れ出してくれる、小説が好きだ。
そして、素敵な小説の中には、必ず矢のように心を射抜くパンチラインがある。
エンタメから純文学まで、気まぐれに読み散らかしている中年脚本家が、胸を打たれた一行を偏執的に紹介したい。
ネタバレするけど、大丈夫。
ネタバレしても面白いから。
今回の一冊はこちら
「キリンヤガ」
マイク・レズニック著 内田昌之訳 ハヤカワSF文庫
この作品、既に絶版していた。
まじかよ!
ですが、図書館にはおいてあるはず。
もしくは中古市場で手に入れてほしい。
わたしにとって、
「なんだか読みにくいし、共感しづらい……」
と敬遠していた翻訳ものの入り口になった作品。
どSF。
雑なあらすじ
様々な惑星がテラフォーミング(人類が暮らしやすく最適化)している時代。
地球は文明が進んでいた。
ケニア在住の老人コリバは有名大学卒のインテリ。
このままだとケニアの伝統的文化が滅びる!
と危惧したコリバは古き良き(?)アフリカにテラフォーミングした惑星で、祈祷師となってトラディショナル・ケニアン・ライフ(伝統的ケニア生活)を生きることにする。
トラディショナル・ケニアン・ライフとは?
この場合、
電気ガス水道はもちろんない。
水汲みに行く。
生贄を捧げる。
病気の赤子はハイエナに食わせる。
女に教育は施さない。
でもコリバ自身は保全局とコンピュータで交信して、いろんな調整をしてる。
えー
こわ
コリバは自ら転生先を作ってそこへ移住した異世界転生勇者のよう。
文明の記憶を持ったまま「ぼくのりそうのむかしのせいかつ」を生きる。
なんだこのジジイ。
と、中年脚本家兼主婦は思う。
今更手洗いで洗濯なんざできないし、炊飯器万歳だし、ダイソンの吸引力はすごい。ちょっとコリバ愛しづらくない……?
そう、コリバ、愛しにくい。
しかし権勢を振るうコリバにも頭痛の種が。
それはキリンヤガの住人。
自分が作った理想郷は、やはりというか、そりゃそうだろというか、コリバの理想通りにはいかない。
キリンヤガはトラディショナルケニアにテラフォーミングした惑星の名前。
その惑星で起こる、コリバがぶつかる壁を描いた短編集。
その中の「空にふれた少女」について、次回偏執的に紹介したい。
〈続く〉