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突然ですが、私はビートルズが大好きです。 


20代女で、かつバンドなど音楽活動をやっていないにしては珍しい、と言われます。でも、とても好きです。 

新卒の頃、深夜1時に仕事が終わってフラフラの状態で近所の渋いバーに一人押しかけ、「ハリウッドボウルライブのVHS流して下さい」と言っていた程度には好きです。カッコつけてマティーニを頼んだけど、酒なんてなんでも良かった。ビートルズの映像さえあればいくらでも酔えました。 

(どんな22歳港区OLだよ。東京カレンダーも泣くわ) 


どこがそんなに好きなの?と言われたら、なかなか絞るのが難しいですが、一度聞いたら魔法のように離れないメロディ、深いようで浅いようなラブリーな歌詞、恋しちゃう美しいハモり、出会ったことが奇跡としか言いようがない完璧なメンバーバランス、そもそも顔が良い……。好きなところを挙げたらきりがない。 


私は何事に対しても原典を参照する傾向があるようで、語彙力が足りないなと思ったら広辞苑を最初から全単語さらおうとしてしまうし(まだ全部読みきれてない)、 高校で配られなかった指定教科書をわざわざ本屋で発注し、その一冊を「参考書」にしてセンター試験に臨んでしまうタイプでした。 


そう。言うなれば、相当効率の悪いパワータイプです。 


なので、何気なく耳にするJ-POPにおいて、作り手たちから発される頻出ワード「ビートルズでいうと~(以下:リボルバーあたりの作風だよね~、など初期・中期・後期いずれかにあてはめる文脈であることが多い。そしてこういう話題における中期率は異常)」に立ち返るのは必然だったのかもしれません。 


「それすら20代にしては古いわ」というツッコミが入るかもしれませんが、Mr.Childrenの「Tomorrow Never Knows」のタイトルはビートルズから来ていると知ったとき、ビートルズのTomorrow Never Knowsを聴いたら、果てしない闇の向こうになんて全く行けなさそうな、むしろ闇の中でずっと寒中水泳してるみたいな曲調でひっくり返った記憶があります。 


とはいっても現役ビートルズ世代の皆さまには経験値努力値熱量すべてにおいて敵うわけがないので、平成が残した、「12時を少し過ぎる頃Oh No 残酷なモンスター」こと、ゆとり世代……が捉え直すビートルズというテーマで書いていければなと思っています。 

私の推察では、日本の戦後ポップカルチャーはほぼほぼビートルズの影響を受けているんじゃないかと思っていますが、それに対して、やっぱりビートルズはすごいんだぞ!!!偉いんだぞ!!!!と押し付けがましいアプローチで主張するのは「いや、そりゃそうだろうけどさ」としか言い返せないし、私もそんなマウントを取られるのは嫌いです。 


そうではなく、ゆとり世代として育った自分の身近にある文化に結びつけることで、ビートルズとポップカルチャーの輪郭を違った形でなぞる、という試みに出来たらと考えています。また、好きな古典をどう描写すると新鮮になるのかという自分への課題でもあります。最近までイギリスに大学院留学をしていたこともあり、現地で見て感じてきたこともまだ記憶が鮮明なうちに書き出していきたいです。出来る気がしない。 


ということで前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、第1回は「ビートルズとの出会い」についてです。 


音楽だけでなく、アイドルや本、食べ物、さらには人も、好きなものに恋に落ちる瞬間って、人類の持つ最も美しいパワーのひとつと言っても過言ではないと思っていて。そして、表現メディアにおいて別れと同率で描かれる率ナンバーワンだと思っています。恋に落ちる瞬間については壮大すぎるので後日ということにして、ことロックに落ちる瞬間についてはしばしば音楽で表現されています。 

「最初ガーンとなったあのメモリーに今も温められてる」(スピッツ「醒めない」(2016年)より) 

特にビートルズに関しては、 

神聖かまってちゃん「ロックンロールは鳴り止まないっ」(2010年)がまさに言い当てていると思います。 

(クリック即、ご飯30杯いけそうなニコニコ動画全盛期のムード) 


私にとっての「その日」は、2014年春、ポールマッカートニーの国立競技場公演が体調不良によって中止になった日の帰りの電車のことでした。そのライブは、当時大学の部活の監督がチケット余ってるから行かないかと誘ってくれたものでした。「まあ、口ずさめる曲はいくつかあるし、いち音楽好きとしてレジェンド見に行っておいた方がいっか~」くらいのノリで参戦を決めた私は、その時ビートルズに全くハマってはいませんでした。 


https://www.huffingtonpost.jp/2014/05/18/story_n_5346139.html


しかし上記ニュース記事のように、ポールの体調不良により旧国立でのコンサートは幻に。私はギリギリまで開演を期待し、まさに記事の写真の国立競技場前の人混みの中にいました。その時の、大抵は自分よりだいぶ年上の、ポールを祈り続けるファンの顔、顔……。それは今でも忘れることが出来ないくらいピュアな表情たちでした。どうせおじさん達が思い出に浸るんだろうなと思っていた自分をぶっ飛ばしたくなるくらい、純粋な祈りが人混みに満ちていました。現地で粘ったものの結局中止が発表され、私は電車に揺られて国立から帰ったのですが、(せっかくなら本人の声、聴いてみたかったなあ)なんて思いながら、iPodLet It Beを流してみました。当時の私にとって、口ずさめる数曲のひとつです。 


そしてその瞬間、世界は突然変わりました。 


今まで何とも思わなかった、定番中の定番曲のはずです。疎い自分でさえ何回も聞いたことがありました。教科書にだって載ってたはず。しかもライブで聴けた訳でもない。なのに…… 

ちょっと寂しげなポールの歌声に、国立競技場の前で立っている無数のファンのことが浮かびあがります。そして、実際に会った訳でもないのに、それはポールからその人たちに、その中の一人であった私に、直接話しかける声に感じられました。「ごめんね、でも落ち込まないで。なるようになるから (”Let it be”)」って。静かに始まったビートルズの演奏は曲終盤にかけて盛り上がりを見せ、寂しげだった歌声はどんどん力強くなっていく。何とも思わなかったその曲に、いつの間にか電車の中で目頭が熱くなるのを抑えられない。自分でも何が起こっているのかよく把握出来ず、ただ、曲が終わって家に帰っても、しばらくずっとその曲を再生し続けました。 


こういう現象は、よく「初期衝動」なんて呼ばれていますが、その言葉を採用するとすれば、これが私のビートルズ初期衝動です。 

「夕暮れ時、部活の帰り道で またもビートルズを聞いた セックスピストルズを聞いた 何かが以前と違うんだ MD取っても、イヤホン取っても なんでだ全然鳴り止まねぇっ」 (「ロックンロールは鳴り止まないっ」/神聖かまってちゃん)

というフレーズは本当に言い当てすぎていて、「ええ、私のことを盗聴してたのだろうか(自意識過剰レベル1000)」状態。音楽を志してもいない私でこれ、ということは、きっと無数の人が同じような気味の悪い経験をし、底なし沼に落ちていっているのだと思われます。なんだか……世界って気持ち悪くて最高だね。 

どんなコンテンツやファンコミュニティにも、解釈違いだなんだ、新規がウザイだなんだ、そういう論争がソクラテスの時代くらいからあると思いますが、このピュアな初期衝動の素晴らしさには叶うことがないので、邪気に襲われたときには思い出して、黙って深夜のバーにVHS見にいきたいと思います。 



今日のフレーズ 

There will be an answer    ("Let It Be" / The Beatlesより)


  【答えはあるさ】


There is構文の未来形。willは助動詞扱いなので、mayとかmustと同じように続くのは動詞原型。故にbeとなります。will beは未来の予定より(決まっている予定であればwillじゃなくてbe going toを使う)未来への意志という感じなので、「答えはあるだろう(あってくれ)」みたいなニュアンスなのかなあと勝手に思っています。このフレーズを歌うポールの声の絶妙な甘さ、マロングラッセのごとし。